温泉分析書を読み解く
温泉分析書をさがそう!
私は各地の温泉に伺ったとき、【温泉分析書】を拝見するのが楽しみです。本来は脱衣所などの目に付く場所に掲示する義務があるのすが、意外となくて探す時が有ります。先日、ある温泉に伺った際、帳場脇の壁に貼って有って、ご主人曰く、お風呂場近くに画びょうで留めておくと温泉成分ガスですぐに取れてしまうので仕方なくこちらに貼っているとの事。いろいろご苦労があるのですね。
さておき、温泉分析書はその温泉のプロフィールが集約されているので、コツを覚えるととても役に立つのです。賞状のような用紙に印刷されている場合が多く、主に左側に掲示されている温泉分析書(本表)。右側にある別紙(別表)。それともう一つ温泉分析書とともに掲示するべき4項目の欄があります。
温泉分析書の中で特に注目すべき項目
細かい注目点は沢山あるのですが、「これだけは外せない!」という所はこちらです。
【浴用の泉質別適応症】
一般的適応症はすべての療養泉に共通するものです。しかし、泉質別適応症はその泉質のみの物なので、確認することが大事です。
【飲用の適応症】
温泉分析書に飲用の適応症が記載されていても、実際は保健所の許可が出ていない場合がほとんどなのですが、もし保健所から飲泉許可が下りて入ていて、飲泉所が有る場合はぜひ飲泉しましょう。
【泉質(美肌効果)】
三大美人湯かどうかを見極めます。適応症の中には美人の湯の項目はないので、泉質をチェックしましょう。【炭酸水素塩泉】【硫酸塩泉】【硫黄泉】それから【アルカリ性単純温泉】も美人の湯に加えても良いです。
【pH(水素イオン濃度)】
pH7.5以上で美肌効果が有ります。
【温泉分析書とともに掲示するべき4項目】
この項目は平成17年に追加されました。源泉の湯使いが表記されるようになり、とても分かりやすいのです。
温泉分析書(本表)
それでは、本表をざっと見てみましょう。
1,分析申請者
主に源泉の所有者または使用者が申請をします。
2,源泉名および湧出地
源泉の名称、湧出場所の住所など。
3,湧出地における調査及び試験成績
調査者、調査日付、源泉温度、湧出量、知覚的試験、pH値、ラドン(Rn)。
4,試験室における試験成績
試験者、分析終了日付、知覚的試験、密度、pH値、蒸発残留物。
5,試料1kg中の成分、分量及び組成
本表の中ごろに、表形式で表している部分です。以下の4つの表が並びます。
陽イオン、陰イオン
化学の説明になりますが、酸、塩基などは水に溶けると陽イオン、陰イオンへと電離します。そのイオン成分を表す表です。表示内容は、成分名、ミリグラム(mg)、ミリバル(mval)、ミリバル%(mval%)、の3つの数字が並びます。
この表はとても大事です。ミリグラムの欄はその名の通り成分重量です。次の欄のミリバルというのは、イオンの電気量を表す単位で温泉のみ使用するものです。イオンは(+)と(-)のバランスが取れているものなので、陽イオン、陰イオンの各合計欄はほぼ同じ数字となります。ミリバル%は、前欄のミリバルの値をパーセントで表示してあり、合計は100%です。この数字は泉質名を付ける際に利用されます。最大のものがその温泉の主成分となり、続いて20%以上のものが副成分で続きまし。
遊離成分
水に溶けてもイオン化しない物質を遊離成分と呼び、固体の物質が非解離成分と表に記載されます。ミリグラム(mg)、ミリモル(mmol)、の2つの数字が並びます。こちらの表の下には陽イオン量、陰イオン量、非解離成分量の合計が、溶存物質(ガス性のものを除く)と記載されます。
水に溶けてもイオン化しない遊離成分の内、気体の物質が溶存ガス成分と記載されます。ミリグラム(mg)、ミリモル(mmol)、の2つの数字が並びます。こちらの表の下には成分総計の記載が有ります。この数字が実際に温泉に溶解している物質の総量表示となります。
その他微量成分
成分分析すべき項目の中、含有量が0.1ミリグラム以下のものを記載します。ひ素、銅、鉛、水銀、カドミウム、など重金属を中心に記載されます。
6,泉質
ここで泉質が表示されます。
【療養泉】に該当する場合は泉質名が表示され、【単純温泉】【塩化物泉】【炭酸水素塩泉】【硫酸塩泉】【二酸化炭素泉】【含鉄泉】【酸性泉】【含よう素泉】【硫黄泉】【放射能泉】に分類されます。
又、温泉法上の温泉であっても療養泉に該当しない場合はこちらの泉質の欄は、(6,判定)となり、【温泉法第2条の別表に規定する○○の項により温泉に適合する】などと表記されます。
7,禁忌症、適応症
こちらに記載される場合もありますが、紙面が限られるため、別表に記載などとなる場合が多いです。
最後に分析機関の表示が有ります。
別紙(別表)
別紙(別表)の内容は、主に、禁忌症、適応症、注意事項、が掲示されます。
浴用の禁忌症(一般的禁忌症)→(掲示義務有り)
浴用の禁忌症(泉質別禁忌症)→(掲示義務有り)
飲用の禁忌症(含有成分別禁忌症)→(掲示義務有り)
浴用の適応症(一般的適応症)→(掲示義務はなし)
浴用の適応症(泉質別適応症)→(掲示義務はなし)
飲用の適応症 →(掲示義務はなし)
浴用上の注意事項 →(掲示義務有り)
飲用上の注意事項 →(掲示義務有り)
温泉入浴に際しての入浴前、入浴中、入浴後の一般的な入浴の作法、注意事項などが記載されている場合もあります。
温泉は薬ではないので、効果の事を効能と表記してはいけなくて、適応症と表記します。又、適応症を表示できるのは、療養泉に該当する10種類の泉質名が付く温泉のみです。温泉法上だけの温泉は適応症を表示できません。
飲用の適応症が表示されていても、保健所の飲用許可が出ていない温泉がほとんどなのです。ですから、正式に飲用許可が出ていて、飲泉所が有る場合はぜひ飲用することを勧めます。
温泉分析書とともに掲示するべき4項目
この4項目は、温泉偽装や、入浴剤添加の一件の後、平成17年から加わった項目です。行っている場合は、理由と共にその旨を掲示する義務が有ります。
【加水】 加水している場合は温泉成分が薄くなっている可能性が大です。
【加温】 加温すると、ガス成分などが失われやすくなります。
【ろ過・循環】 温泉の鮮度が落ちやすい。又、塩素消毒を行わないとレジオネラ属菌が繁殖しやすいです。
【添加】 塩素系消毒剤、入浴剤などを添加すると、成分が変質してしまいます。
大規模な温泉ホテルや温泉施設では、どうしても源泉不足を補うために加水をし、又、温度が下がるので加温を行い、その為に、ろ過循環形式の浴室となる場合が多く、レジオネラ属菌を抑えるために塩素系消毒剤を添加せざるを得ない場所が多いのです。大きな温泉施設でこの4項目が行われていない施設に巡り合えばとてもラッキーですね。
温泉分析書の中で注目すべき項目
初めに特に注目すべき項目をあげましたが、それ以外のチェック項目を説明します。
【湧出量】
温泉分析書には、一分間当たりに温泉が湧出するリットル数で表示されています。○○リットル/分です。この数値は源泉かけ流しで温泉を提供した場合、1日に何人の入浴者を衛生的に賄えるかの目安となります。1人当たり1リットルが源泉かけ流しに必要な供給量の目安となっています。もし、100リットル/分の源泉が有るならば、1日に100人ほどの入浴客を衛生的に賄えることとなります。温泉の鮮度とはまた違う考え方で、小さい浴槽の方が鮮度は良くなるのですが、入浴客数に制限が出てきます。
【泉温(源泉温度)】
熱い熱湯でお茶を入れると濃くなるように、温泉も温度が高いほど濃くなる傾向が有ります。その際、適温にするために時間をかけて冷やす際に鮮度が落ちたり、温度を下げるためとして加水することで薄くなってしまったり、又、高温の為少しずつ浴槽へそそぐので鮮度が落ちたりします。又、泉温が低く加温すると、ガス性の物質は気化してしまい成分が失われる可能性が高くなります。最近少しぬる湯が好まれる傾向に有り、源泉温度のベストは、43℃くらいでしょう。ちょうど良い絶妙な温度帯と言えます。
【浸透圧】
泉質名の後に(低張性中性高温泉)などと、カッコの中に記載されています。低張性、等張性、高張性の3種類になります。低張性は水分が肌に浸透しやすくてふやけやすく、高張性は温泉成分が体に浸透しやすいです。しかしほとんどの温泉は低張性です。これは理論上の事なので、高張性の温泉は濃いという程度に思ってよいです。
泉質名中に表示される順番は?
泉質名を付ける決まりとして、より前に記載されているほど濃い成分で、その温泉の個性と考えましょう。いくつか参考例を並べてみます。
【例1】カルシウム・ナトリウム・マグネシウムー硫酸塩・炭酸水素塩泉
含まれる物質が1,000mg/kg(ガス性のものを除く)以上の塩類泉で、陽イオンでは、「カルシウム」>「ナトリウム」>「マグネシウム」の並び順で濃度が濃いという表示です。
陰イオンでは、「硫酸塩泉」>「炭酸水素塩泉」で療養泉であり、硫酸塩泉のほうが成分量が多いという表示です。
【例2】ナトリウムー塩化物泉
こちらも例1同様の塩類泉で、陰イオン中、塩素イオン成分が多く「塩化物泉」で療養泉となり、他の成分は20ミリバル%未満。陽イオンのナトリウム成分(食塩成分)が特に多いという表示です。
【例3】酸性・含硫黄ーアルミニウムー硫酸塩・塩化物泉
「酸性泉」「硫黄泉」「二酸化炭素泉」「放射能泉」「含鉄泉」「含よう素泉」など、特殊成分が含まれる場合は、塩類泉の泉質名の前に表示されます。前に書いてある泉質名ほどその温泉の個性であると考えてください。
「酸性泉」「硫黄泉」としての個性があり、塩類泉としては、「硫酸塩泉」「塩化物泉」の順で濃いという表示です。
【例4】硫黄泉((単純硫黄温泉、単純硫黄冷鉱泉)
硫黄の総量(2mg/kg以上あれば硫黄泉です。厳密には係数が有ります。)が規定値に達していながら、温泉に含まれる物質が1,000mg/kg(ガス性のものを除く)未満で塩類泉とならない場合は、硫黄成分のみ泉質名が付く規定値に達しているということで、単純硫黄温泉(25℃以上)単純硫黄冷鉱泉(25℃未満)と言う表示になります。
覚えておいてほしい泉質名
【三大美人泉質】
「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」「硫黄泉」> 四大美人泉質は「(弱)アルカリ性単純温泉」も加わります。
【四大希少泉質】
「二酸化炭素泉」「含鉄泉」「放射能泉」「含よう素泉」> 五大希少泉質は「酸性泉」も加わります。
【四大湯あたり泉質】
「硫黄泉」「酸性泉」「放射能泉」「含よう素泉」> 単純温泉、二酸化炭素泉は湯あたりしにくいです。
【三大敏感泉質】
「二酸化炭素泉」「放射能泉」「含鉄泉」> 時間の経過、加温等で極端に成分が失われやすい 泉質です。逆に「単純温泉」「塩類泉(塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉)」は比較的劣化しにくい泉質です。
(温泉ソムリエテキストを参照しています)
(日本温泉協会のサイトを参照しています)